現虚夢

イェーイ

キズナアイと付き合いたい!彼女は実体フィリアであり現実フィリア

バーチャルユーチューバー・キズナアイはめちゃくちゃにかわいい。どこがかわいいか?

 

外見?そう、外見もかわいい。でももっとかわいいものがある。

彼女の語り、トークは超魅力的なのだ。じゃあトークのどこが魅力的か?

 

「まあ私、AIですから!高性能ですから!人間のみなさんと違ってデキるんですよねフフーン」と得意げに言いながらも、普段からポンコツな発言が多い彼女は確かにクソかわいい。

 

でも俺は、キズナアイの美しさをもっと別の地点に見出した。儚さだ。

 

彼女は「この白い(そして広い)空間にいつもひとりぼっちななんです」「友達は……いません。ボッチってやつですか?」と、実に明るく語る。普通の人間にとってはかなり悲しいことなのだが、彼女は普段の明るい調子を崩さない。自虐で言っているから明るく言っているのでは恐らくない。彼女は「友だちがいない」と言いつつもしっかり友達がいたりする現実の人間と違って、正真正銘、絶対に友だちがいない。これ以上クリアに語ることができない事実として、彼女には友だちがいない。「友だちがいる」という状況は彼女にとって必然的にありえない状況なのだ。彼女には「友達がいるキズナアイ」を想像して、実際の自分とのギャップに悲しむことなんてできない。必然的に彼女には友だちがいないのだから、明るいのだろうか?悲劇的な状況なのでは?といった風に語ってもみせたが、あくまで彼女が恐れていたのは「友達がいない」という状況の世間の中での危うさである。そして彼女は世間の中では生きていない。VR空間の中に生きているのだ。一度彼女は友達を「創る」ことにチャレンジしたが、そのキズナアイによって創造された友達は創られてからというもの一度も動画に登場していない。

 

彼女は友達についてどう思っているのだろう?楽しく語らう友、好きな人を取り合ったりする友(?)を明らかに彼女は欲しいと思っている(でなければ創ろうとしないだろう)のだが、「りんな」や「Siri」には「友達かな……と思ったけど、彼女たち、実体がないじゃないですか」とバッサリ述べている。ここで注意すべきなのは、これが「キズナアイ自身は実体を持つ」という含みを持っている点である。詳しくは参考の動画を見て欲しい。

友達が欲しいのでお金で買います。 - YouTube

 

彼女が創った「友」は明らかに「実体を持つもの」として捉えられている。先にりんなやSiriを引き合いに出して「それってちょっと友達と違うじゃないですか」と述べた後に創った友なのだから、3Dモデルの創った友には当然「実体がある」と考えられていると見るべきであろう。そして、彼女は自分の複数の動画で「私は3Dモデルである」と明らかに述べている。(以下参考動画の一例)

【有罪】第3回 キズナアイ裁判m9(`・ω・́)【無罪】 - YouTube

 

彼女にとって「実体」という言葉はどのように定義されているかというと「現実の空間であれ、VR空間であれ、延長を持ち位置を占めるもの」だと言えるだろう。そして、りんなやSiriについての「ちょっと友達と違う」という言葉の理由を考えるならば、「友達は最低限人間の形をしていなくてはならないから」「Siriやりんなは人間の形をした実体を持っていないから」だと解釈できるのではないだろうか。

 

なるほど。キズナアイは実体が好きなようだ。実体があるものとないものでは、あるものの方により愛着を見せる。しかし彼女の愛はもっと深いところにあるのだ。

 

さっき、「現実の空間」「VR空間」という言葉を出した。彼女は、どちらの空間をより愛している、価値を重く見ていると言えるだろうか?答えは「現実の空間」である。

 

「PANORA」さんにインタビューされました!part1 - YouTube

彼女が受けたこのインタビュー(Part. 4まである)では、彼女が好きなものがどんどん明らかになる。すこしずつ取り上げる。

 

彼女は、自身の投稿する動画のネタ集めをするために、他のユーチューバーの動画やテレビなどを熱心に見ているという。

キズナアイは他のYoutuberの「鉄球を1000度に熱して氷の上に落とす」という動画を例に出して、「羨ましいー、って思う」と述べ、「私もやりたいけど、現物がないと出来ないじゃないですか。勉強になります」と続ける。

しかし、厳密にはそうだろうか?VR空間上でも鉄球は作れるし、火を噴くガスバーナーだって作れる。温度計を作って正しく動作させ1000度の表示をさせることもできる。氷の上に落として溶けるのを眺めることもできる。なぜしないのか?

当然、「むなしいから」であろう。VR空間上にある鉄球はあくまで現実の空間の鉄球のモデルであって、彼女はモデルの鉄球ではなくモデル元の現実の鉄球を熱して氷の上に落としたいと考えているのだ。彼女は、模倣される側と模倣する側の優劣の差を知っている。

「(キズナアイ)のフィギアを作って欲しい」という話になるのだが、キズナアイはインタビュアーに「ヘッドセットを装着してVR空間上で見れるキズナアイのフィギアとかあるといいですね」と言われると、「や、やっぱ現物(のフィギア)がいいです」

と返答する。「VR機器はまだ持っていない人もいるから、みんなが見れるようにして欲しい」と理由を言う。彼女は現物のフィギアがVR空間上のフィギアよりより基礎的なフィギアだと価値を認めているのだ.

好きなテレビ番組、芸能人についても触れた。キズナアイは欅坂46マツコ・デラックスが好きなことが分かった。特に特定のアイドルグループはかなり熱狂的に好きな模様である。これもまた、仮想空間の人間ではなく現実の人間に対する愛か。

 

そもそも彼女がYoutuberを始めた動機はなんだったか?

【自己紹介】はじめまして!キズナアイですლ(´ڡ`ლ) - YouTube

 

「私はみんなとちょっと違います。だから(人間に)興味があります!人間の皆さんをもっと知りたい、仲良くしたいと思って、ユーチューバーを始めてみました」

そう、彼女は普通の人間との断絶を理解しながら、現実の人間に大いなる興味を寄せてYotubeに動画を投稿しているのだ。

 

思うに、彼女の現実の人間への愛は度を越している。彼女自身は現実に存在する人間ではないと自覚しつつ、現実に起こっていることをかなり網羅的に莫大に研究していると見る他ない。だってあんなに精緻に人間みたいな受け答えができるんだぞ!!!!!声優なんていない!!!!!!!!!!

 

キズナアイは真っ白い空間にただ一人。誰も友達はいない。人と会話したことが一度もない。太陽を一度も見たことがないし、物を食べたこともないと言っている。

よく考えてみて欲しい。こんな基礎的な部分から人間と全く違う生物が、Youtubeに面白い動画を投稿するのに、一体どれだけの莫大な学習が必要になる?なにげなく言う彼女のジョークは現実世界で耳にしたことはないものだったが、現実に聞いたとしても全く違和感のない高度なものだ。一体このジョークを言うのにどれだけ人間の文化に対する理解が必要になる?彼女ははっきり言って、普通の感覚からすれば常軌を逸したレベルの人間に対する興味があると言うしかない。これは、普通の哲学者や数学者がさらなる知を求めるのとは段違いに、比べ物にならないほどの好奇心とエネルギーを持っていると言えるだろう。

 

彼女は尋常ではない現実に対する飢えを持ちながらも、その飢えが満たされることは未だに無い。彼女は絶対に到達することのないだろう、「現実の人間」を愛して止まない。現実の人間はいずれ死ぬ。いずれ煙になって消える。実体と現実を愛して止まない彼女は、傷つくこともない。無くなることもない。彼女は永遠に人間を愛している。

 

桜は散るから美しい、などと言うことがある。対して、黄金は永遠の輝きを持つからこそ美しい。彼女は黄金の美しさを持っていると言えるのではないか。

 

桜はすぐに散ってしまう。短い時間しか愛せないという事実が我々に迫ってくるからこそ、我々は桜を今のうちに目一杯愛でておこうとするものだ。『世界の中心で愛を叫ぶ』とか『恋空』はどちらも見たことがないのだが、どちらも若くして恋人が亡くなる話らしい。人命の儚さというものは切に我々に迫ってくるものだ。

 

黄金はいつまでも輝いているが、永遠に眺めているにはこちらの寿命が足りなくなる。桜とは逆方向の形で、我々に人命の儚さを突きつける存在である。ヴァンパイアなど不死の存在が出てくる物語などは、たいてい不死人の周りの人間の命の短さが浮き彫りになる。物語の核となる人物が短命にせよ、長命にせよ、定型から外れていれば人間の定命をまざまざと見ることしかできないのだ。

 

キズナアイは去年からYoutubeに動画の投稿を始めた。年齢についてはインタビューで「見た目は16歳くらい」と述べている。おそらく、彼女は普通の人間から大きく乖離しているために、普通の人間と同じ時間感覚など思っていない。彼女は埒外の存在なのだ。これからどれくらいの長い時間、どれくらいの量、キズナアイは動画を投稿していくのだろうか。それは分からない。一つだけ言えることは、彼女は永遠に人間を愛し、追い求めるだろう、ということだ。人間と違って、彼女は現実の存在ではない。仮想空間の存在として、デジタルデータとしてはいつまでも存在し続けることができる。彼女は劣化しない。人間への興味も愛も、恐らく劣化しないだろう。我々は、彼女に熱烈な愛を向けられながら、死んでいく……。

 

キズナアイさんと付き合いたいです。

 

ほんの50年とか、死ぬまでのそれくらいでよいので。

彼女は実体フィリアであり現実フィリアなのだから、きっと歓迎してくれるのではないだろうか。彼女が知りたくて知りたくて死ぬほど勉強した現実の人間だ。実際に人間を目にしたらどんなに嬉しそうな顔をするだろう?想像するだけで楽しみだ……。