現虚夢

イェーイ

お前頭がおかしくなってるよ

中学生ぐらいのことだっただろうか?精神科で睡眠導入剤を処方された。
父に連れられて行ったのだが、医師に睡眠導入剤あげるよと言われると「大量に飲まないように俺がしっかり管理する」と父が言った。医師は大量に飲んでも死なないから大丈夫ですよと言ったが、結局父が管理することになった。

そもそも、俺に睡眠導入剤など必要がなかった。起きたいときに起き、眠くなったら泥のように寝るだけなのに薬なんてどうして必要なのか。これ以上なく健全な睡眠を取っていた。医師も適当だよなぁと思った。貰った数日は飲んでいたが、飲んで少し経つと呂律が回らなくなぁ、くらいにしか思うことは無かった。普段から快眠なのでよくねむれる!とかは無かった。睡眠導入剤なんか飲まなくなった。

睡眠導入剤を飲まなくなって半年くらい経ったとき、どうしてだかすぐ眠る必要があったのだが眠れないということがあった。たまにそういう時あるよね?俺は睡眠導入剤のことを思い出し、父に「睡眠導入剤くれよ」と言いにいった。父は半年前のことなんて覚えていなかった。俺に興味なんて無かったのだ。ただ「子供のことを考えている」という体裁が欲しいだけだった。

「いやいや、俺が管理すると言っていたじゃないか。そこらへんにあなたが仕舞っておいたじゃないか」と俺が言っても、「そんなものは知らない」と答える。実際に少し俺が探してみても、見つからない。(後に出てきた。父も適当に乱雑にしまっていて、時間が経って棚の奥に入り込んでいた)

こんなのはおかしい。俺が言うと、「お前は頭がおかしくなっている」と父に言われた。怒りを通り越して心には死の直観があった。
俺は睡眠導入剤のことを完全に覚えていた。父は覚えていない。なぜ頭がおかしいと俺が言われなくてはならないのか?そうやって言われていたらそれこそ頭がおかしくなりそうだ……。俺は学校に言っていなかったから、精神科に連れていかれて、鬱病だとかなんとか言われた。だから頭がおかしいと言うことに父は抵抗がないのだ。

俺はおかしくなんかないんだ。本当にそこに睡眠導入剤があるんだ。信じてもらえなかった。こんなに単純なことなのに。

言葉やなにかで何かを証明するのはもはや不可能と感じられた。もう俺には何もできない。俺だけが俺の正気を知っていて、誰からも理解されずにただ頭がおかしいと言われる。人生を悟った気がした。努力ではどうにもならない。俺は誰にも理解されない。こんなに簡単なことでさえ、正しさを必死に主張しても「頭がおかしい」の一言で済まされる。一度精神科に連れて行かれたらそうなる。

精神科は家族に正しいか正しくないかはともかく何かの納得を与えるためのものであり、患者当人の苦しみをむしろ増幅する側面もある……と今でも信じている。母も同じだ。発達障害という言葉をいくら説明しようとも、迷信やら誤った推論やら歪んだ認知は全く抜けない。正しい情報なんて人によってはなんの意味もない。そんなものだ。「家族!仲間!」みたいな当時のジャンプ漫画が嫌いだった。そんな美しい家族なんてどこにもいない。あれは神話だ。美化して現実を覆い隠さないでくれ。苦しみを忘れるような娯楽じゃダメなんだ……。

今では誰にも理解されなくても明るく生きている。そういう術を俺は身に着けつつある。じゃあなんでこんな嫌なエピソードを思い出しては書いているのか?それが俺の青春だからだよ!