現虚夢

イェーイ

福田先生、江幡先生。

中学のときの福田先生は優しい先生だった。配られたプリントを折り紙にして遊んでたら「作った人の気持ちも考えろ」と怒られたのは覚えている。発達のアレで手遊びが必要だったんだ。大目に見てくれ。その時くらいしか変な怒られかたをした記憶はない。優しくて倫理的で話の分かる人だった。

福田先生はある時、俺の家に来て、俺をドライブに連れて行った。気分転換を俺にさせて、「どうしてあんなことしたんだ?」と俺に聞いた。そんなの俺にも分からなかった。「誰かにフラレてショックだったとか?」別に俺は特に好きな女の子もいなかった。そんなに分かりやすい動機で何かをする人間じゃなかった。自分で自分が分からなかった。たぶん、肉体的にも精神的にも追い詰められていたんだと思う。きっかけっぽいものも、今から思えば無くはなかった気がするが、その時は何も分からなかった。ただ泣きたかった。ただ辛かった。理由が分からなかった。漠然としていた。漠然と辛いものだ。

高校生になったらもっと漠然と追い詰められていた。何もできなかったし、何も分からなかった。担任の江幡先生は3年間俺の担当で、やはり優しく、やはり話のわかる先生だった。ときどき定型特有の人間を操るムーブをする時があったが、ときどきだった。俺にはしなかった。高校生にもなっていたので、クールなお付き合いだ。でもずっと学校に行っていなかったので、いつも俺の家に訪問しにきていた。両親は江幡先生に的はずれなことを言っていた。時間の無駄だったし聞いているだけで嫌になる話だった。先生はスマートだった。最終的にめちゃくちゃ江幡先生に救われたのは覚えているが、どう救われたかは覚えていない。少しずつ、地味な配慮をしてくれて助かったかもしれなかったし、土壇場でドンと俺を引き上げてくれた気もした。どっちもだったかも。

先生らは親よりもずっと恐れ多い存在だったしずっと尊敬できる存在だった。大人はわりかし信頼できた。子供はあまり信用できなかった。倫理観もクソもない人たちばかりだった。

今は学校に行っている。ちゃんと大学に来いよとか励ましてくれる友達はいない。なぜなら普通に大学に行っているから。そもそもそんなこと言われたら的外れだし、たぶんこれからもそう。自分で勝手に単位も出ないのに休まず出たくなるような面白い講義があるからだ。それはそれで助かる。永井先生ありがとう。